2010年ブリーダーズカップにおけるLife At Ten事件(その1)

2010年冬の出来事を振り返ります。面白いことは特になく、ただの個人的なまとめ。
全5,6回の予定。

発端

まずはこちらの映像から。Kentucky州Churchill Downs競馬場にて施行された、2010年のブリーダーズカップ レディースクラシックです。

1枠の馬に注目してください。これが2番人気の Life At Ten (以下、LAT) です。

この年、5歳にして本格化した彼女は4連勝でGレースに初挑戦をします。そのSixty Sails H.(G3)でGレースを初勝利し、続くOgden Phipps H.(G1)でUnrivaled Belleを抑えG1も快勝。さらに高額賞金のDelaware H.(G2)も3馬身差で快勝し6連勝と一躍、古馬牝馬路線のトップクラスに駆け上りました。Personal Ensign S.(G1)では大差の3着に敗れましたが、BC前のBeldame S.(G1)で再びUnrivaled Belleを下し、2つ目のG1も獲得していました。

ところが本番で予想外の事態に。
もう一度繰り返しますが、1枠がLATです。

2010 Breeders' Cup Ladies' Classic

なんということでしょう。
発走直後からまるで馬群についていけません。あからさまに走ろうという雰囲気が感じられません。
1-2角のターンではかすかに映像に入りましたが、その後も異常な状態は最後まで変わりませんでした。
一方で、LATがG1の舞台で2度も先着したUnrivaled Belleは、鬼足Blind Luckを振り切って優勝。
その遙か後方で、LATはどうにか完走し最下位11着で入線しました。

主な登場人物

  • Life At Ten: 馬
  • John Velazquez(wikipedia(EN) / (日本語)): LATの騎手。全米の超一流騎手のひとり。全米リーディング騎手2回(賞金順)。
  • Todd Pletcher(wikipedia(EN) / (日本語)):LATの調教師。全米最強調教師のひとり。

時系列イベント一覧

オチも含めて主要なイベントを紹介します。
主要なイベントは半年以内に終わってますが、サブイベントを含めるともう2回、年を越してます。
後半部分は多少手直しが入るかも。

2010/11/05 BCレディースクラシック施行
同日 KHRCが調査を開始
2010/11/06 LATが発熱。白血球数が多く感染症の疑いあり
2010/11/30 KHRCのLisa Underwood常務理事は調査結果を次回の委員会では報告できないと発言
2010/12/13 KHRC定例委員会開催。
2011/01/11 三者的立場として州の運輸部門(Transportation Department)の人員を招集し調査に当たらせる。Lisaは現状ではレポート提出までの工程表も出せないと
2011/02/01 Lisa、まだ調査継続中と
2011/02/09 KHRC定例委員会開催。Lisaは89人と面接し、血液サンプルも検査したが、まだまだと
2011/03/04 Lisa、次回の委員会でレポートを提出できると
2011/03/10 レポート "Investigation of Events Surrounding the Breeders' Cup Ladies' Classic" 発表、委員会で9-1で可決。John Velazquez騎手とJohn Veitch州上席裁決委員に規則違反の疑いがあると指摘
2011/03/16 KHRCは、John Velazquez騎手に対して規則違反の罰金として10,000万ドルを課す
2011/04/06 John Velazquez騎手は(しぶしぶ)罰金を払う
2011/06/28〜30 John Veitch、行政審判にて彼が規則違反をしていたというKHRCの主張に対して反論
2011/11/28 John Veitch、理由の提示なしにKHRCを解雇される
2012/02/15 Veitchに対して裁決委員の職務を1年間停止処分するという勧告をKHRCは満場一致で可決
2012/04/11 裁判所はVeitchに対する1年間の停止処分の執行を差止め。KY州以外で裁決委員の職を求めることが可能になる

調査開始

Kentucky Derbyと並ぶ米国競馬の祭典であるBreeders' Cupで人気馬が不可解な敗戦をしたことで、Kentucky州の競馬を監督するKHRC(ケンタッキー州競馬委員会)は本件の調査に着手しました。

レース翌日から、彼女を管理する全米最強調教師のひとりであるTodd Pletcher調教師は、レース4時間前に投与したSalix(商品名Lasix, 原料furosemido)に対する反応があったのではないか*1と言い、またこのときに既に提示されている問題として、Pletcher調教師と当日の騎手である一流ジョッキーJohn Velazquez騎手ともパドックで彼女の異常に気づいていたという点があります。

またVelazquez騎手はレース発走前に、スポーツ専門局ESPNの中継に関わっていたJerry Bailey(競馬殿堂入りの元・騎手)に、彼女は何か様子がおかしいとコメントしていました。*2

さらにLATはレース翌日、発熱があったようで、白血球数が異常に多く感染症の徴候があったそうです。

ともかくKHRCとしては、騎手のESPNへのコメントには触れずに「パドックでも装鞍所でも本馬場入場時もゲートでも、調教師・騎手どちらも裁決委員、獣医、係員に異常を訴えなかった」「レースするのに適しているかどうか、騎手も調教師も懸念を持つべきだ。適切なプロトコルにおいては、KHRCの獣医に知らせるべきだと知っているはずだ。獣医が競馬場の裁決委員に競走除外を推奨できるのだから」「KHRCは獣医と競馬場の裁決委員はこのレースに関するすべての場面において正しく行動したと堅く信じている」との声明を発表。

KHRCの見解としては、馬の不調を自覚していた調教師や騎手に対して責任があると主張していました。なおレース後に州競馬裁決委員長のJohn VeitchがPletcher師、競馬場係員のチーフ、KHRCチーフ獣医に面談していたそうです。このときはVelazquezへの面談はpendingとなっていたようです。

KHRCは、いきさつを整理・分析するだけでなく、今後の再発防止に向けての勧告をすべく、レポートを作成しようとしていました。

混迷する調査

当初浮かび上がってきた証言で、主要な事実関係は既に抑えられているように思われ、近いうちにレポートが発表されるのではないかとみられていました。

しかしKHRCからの最終レポートはなかなか発表されません。

BCLCのレースは2010/11/5に行われましたが、KHRC常務理事Lisa Underwoodは11月末時点で、すべての面談が完了しないため次回12/13のKHRCの委員会では発表できないとの発言をします。

年が明けて2011/1/11には利害の絡まない第三者として州の他部署(Transportation Department)の調査官を連れてきて裁決委員の立場となってもらい、調査のヘルプを依頼することになりますが、Lisaはレポート提出までの工程表も出せないと弱気の発言。

2011/2/9のKHRCの委員会にて、89人に面談をし、レース前に採血したサンプルで薬物検査も実施したと調査の途中経過を説明したものの、最終レポートの提出時期についてはまだ明確にされませんでした。

(その2)へ続く

*1:Trainer Todd Pletcher said the day after the race Life At Ten may have had a reaction to the bleeder medication Salix, which is administered four hours before a race.

*2:Velazquez told ESPN just before the race the filly didn’t seem right.