猫を抱いて象と泳ぐ

小川洋子さんの本には4,5年前、いや調べてみると6,7年前によく読んでいた。本書はタイトルだけは記憶の片隅にあったが、内容は全く知らず。人形がチェスを指すという設定に惹かれて久々の小川洋子ワールドに没入した。

伏線となるパーツの散らし方はさすがの技。お耽美な節回しや、登場人物たちの濃い執着などは人によっては不快な要素もあるのだろうけど、自分はここがツボ。あと老人の振る舞いを表現させたらなかなか右に出るものがいないのではと思う。

自分、チェスは小学生の頃にクラブ活動で指した経験しかなくて定跡どころかルールもほとんど覚えていない。でもチェスを知っていたら多分素直に読んでられなかったと思う。いらぬツッコミを入れたくなってしまいそうで。

ふと将棋に置き換えたらどうなるかと。この世界観は生まれてこないような。まずは形から入ってみるか。盤を寄木細工で彩って、駒も立体化して・・。でも一番の課題は人の問題か。本書の登場人物を日本人にするとあまりに不自然すぎて。ただ指し将棋でなく詰将棋であれば深遠なる世界を描けるのかも。底なしに地味すぎるが。

巻末に若島正さんへの謝意があり、そうだったのかと驚くとともに、なるほどチェスの技術面だけでなく物語を生み出す意味でも最高の協力者を得ていたのだと納得した。