2010年ブリーダーズカップにおけるLife At Ten事件(その3)

<調査結果> 「Q1) 国際的な不正行為や詐欺行為の証拠はないか?」

→なし。不正な投票行為はなく、TCO2テスト*1のためにレース前に抜き取られた血液を検査したが、禁止薬物は検出されず。レース後に検査馬房へ連れて行かれなかったので尿検査の分析はない。

<調査結果> 「Q2) LATは競走除外されるべきだったか?馬の状態はどうだったか?レースできる状態だったか?コミュニケーション的課題はあったか?」

それぞれの立場で、証言をまとめています。
A. 騎手
B. 裁決委員
C. 獣医
D. 調教師
E. 馬主
F. メディア
G. ほか

A-Bを今回のエントリで、Cが長めなので次回はCだけ、D〜Gをその次にまとめます。

以下、ほぼ全訳ですが多少意訳や省略をしてます。

A. 騎手

LATがゲートに入る、約5分30秒前のVelazquez騎手とJerry Baileyの会話。
LATのリードポニーの騎手がESPNコメンタリーと交信できるマイクとスピーカーを腕につけていて、コメンタリーが質問するときにリードポニーの騎手がスイッチをONしていたそうです。

Bailey:「Johnny, 君の牝馬はこの競馬場で走ったことがないね。ウォーミングアップで、彼女がこの馬場を気に入ったかそうでないか教えてくれないか?どうだい?」
Velazquez:「今のところ、よくわからないんだ、Jerry、正直言って。彼女はいつも通りにはウォーミングアップしていない」
B:「いま時点では、彼女は少し気乗りしない感じかい?」
V:「そうなんだ」
ー その後レースの戦略の話をする。枠入り1分15秒〜30秒前 ー
B:「よくなってきたか?」
V:「あまりよくなってない」
B:「照明のせいか?それとも肉体的なものかい?」
V:「わからない、Jerry、よくわからないんだ」

という内容でした。

レース後の証言。

  • レース後に騎手と会話した内容についてDr. Peckhamの証言によると、状態を騎手に聞いたところ、彼女は大丈夫だ(she felt OK)と答えたという*2
  • 2010/12/21の騎手との面談。騎手は、もしLATをKHRCの獣医のところへ検査に連れて行ってもLATはスクラッチされないだろうと信じていた、と証言。「どういう理由で彼ら(獣医)はスクラッチするんだい?彼女は歩行が困難なわけでもない。彼らは何ていうんだ、走るにはおとなしすぎるとでも?」「ウォームアップは悪くても、好走する馬だって乗ったことがある」*3。「彼女は確かに走らなかった。つまり、まったく走ろうとしなかった、彼女は元気に見えていたが、彼女は何ら興味を見せなかった。まったく興味を示さなかった。それまでということだ。」
  • Pletcherのアシスタント調教師であるMichael McCarthyによるとレース後に下馬した騎手から、「彼女はスクラッチすべきではなかった」と聞いたという。2011/1/7に騎手に確認したところ「私たちは馬が凡走するといつだってそう言う」と。またMcCarthyは、LATは馬房へは元気よく歩いて戻り歩行困難な様子はなかったと言っている。LATは健康だったと確信していると言った。「彼女は恐ろしいものを見たかのように、目を見開いていた」馬房に戻った時に「馬房へはまったくいつものターンをしたと思うし、だんだん完歩を短くしていった」しかしシャワー後にコズミの徴候を見せたという。
B. 裁決委員

この調査は第三者的立場であるOIGにより行われた。

VeitchはKy州の上級裁決委員であり、KHRCに雇われている。BecraftとLeighはChurchill Downsの従業員であり、KHRCにより裁決委員として承認されている。

OIGのレポートは以下のことを明らかにした。
裁決委員たちはESPNのプロデューサZimmermanから情報、つまりVelazquezがLATは「いつも通りにはウォーミングアップしていない」と懸念していた情報をを受け取っていた。裁決委員たちはKHRCの獣医に、ESPNでのVelazquezの会話を伝えなかった。Becraftは、LATが身体的に何かおかしいと彼は観察していたと言った。LeighはLATがぎくしゃくしているように見えたと思ったと言ったが、彼女がいつもの状態にはないと見なさなかったとも言った。後になって、BecraftとLeighは、獣医をコンタクトを取るべきだったと確信している。Veitchは、VelazquezがDr.PeckhamへLATを連れて行くべきだったと確信している。

Becraftは他の裁決委員に、LATのことで獣医に電話すべきだと言及したと言った。Becraftは、Veitchが「もし我らがそうしたら、その馬をスクラッチした方がいいだろう」と返答した、と言った。Veitchは、Becraftのこれらのコメントを聞いたことを否定したが、Becraftが言ったかもしれないことは受け入れた。Veitchはその返答をしたことは否定した。Leighは、Becraftが獣医に見せるべきだといったことは思い起こしたが、LATが発走ゲートに入ったときだったと考えている。Zimmermanからの電話のあとで、裁決委員たちは(ESPNの)番組を見るのを止めていた。そのため彼らは以下のことを聞いていない。1. PletcherがLATはパドックで彼女らしくなかった。 2. LATがよくなっていないというVelazquezの2回目のインタビュー。 3. 現場の獣医は誰もその状況を知らなかったというDr. Bramlageの情報。

裁決委員たちはESPNや他の競馬中継を効くのが好きではなかったという。なぜならタイムラグがあるし、彼らが責任を持つ生の競馬の実際の状況について混乱があるはずであるので。番組ではしばしば他のレースのリプレイを流す。裁決委員たちは、1. 実際のレースの発走を見逃し馬券窓口をロックするボタンを押さなかったり、2.前のレースのテープを見て窓口をずっと先にロックしてしまうことを懸念していた。

裁決委員の中で、命令系統に関して混乱があったと指摘している。上級裁決委員に対しての、個々の裁決委員の権限に関して明確な理解がなかった。

(次回へ)

*1:いわゆるミルクシェイク

*2:筆者注: 筆者としてはこの回答について、内面的な状態というよりも骨折など外面的なケガはなかったという意味で騎手が言ったのではないか、と解釈した

*3:筆者注: 筆者としてはここは同意。元気がない、という外面的には明白な異状ではないため、ある種トウショウフェノマ的な "乗っている人にしかわからない懸念" として処理され、スクラッチされなかった可能性はあったと思われる。2番人気であり馬券面でも影響が大きすぎることもあり。ただし今回、もし獣医に不調を訴えたうえでスクラッチされなかったとしたら、想像できないほどの大問題になったかと思うが