2010年ブリーダーズカップにおけるLife At Ten事件(その4)

C. 獣医

ここ、残念な内容がいろいろと。
獣医という立場からは裁決委員のように積極的に決定や判断を下すことはできないのかもしれないが、あまりにも受け身な態度と無責任とも言える姿勢に違和感を覚える。

1. 役割と職責

  • BCでは、異なった役割と職責を持つ複数の獣医がいた
  • KHRCの獣医は公式の監督獣医であり、馬のスクラッチについて裁決委員に勧告する職責がある。
  • BC委員会の獣医はBCに雇われていて様々な管轄(jurisdiction)からきている。彼らの役割はBC週間にKHRCの監督獣医をアシストすることである。
  • AAEPの当番獣医はメディアをアシストするために現場にいる。BC中にメディアに故障した馬について求められた情報を提供し、"必要に応じて"メディアの代表は健康や治療について質問をする。AAEP当番獣医プログラムの主要な目的のひとつは、可及的速やかに馬の状態について正確な情報をメディアに伝える一方で、時期を逸せずにKHRCの獣医にケガした馬の治療をさせることである*1。2人の当番獣医がBC期間中に職務を果たしていた。一人は表で対応し、もう一人は裏方であった*2
  • LAT担当の民間獣医がいた。定期的または継続中の獣医学的ケアを施していた。

以下で「810 KAR 1:012 Section 9 (1)」という表記が出てきますが、「810 KAR」はKy州の競馬施行規程のようなもので、「1:012」の初めの「1」がサラブレッド競馬用の施行規程を指し、「012」はその中の条項です。まとめますと、「810 KAR」という施行規程の「第1章 第12条 第9項 1号」となります*3

2. かつての基準

  • 810 KAR 1:012 Section9(1) では馬がレースをする妥当な状態になければレースをさせないようにと規定している。裁決委員はどんなときであってもしかるべき者に検査をさせられる。
  • 810 KAR 1:024 Section4では、KHRCの獣医は、馬がレースにフィットしていないかどうか、馬を競走除外するような判断が裁決委員に勧告されるべきかどうか、判断する権限がある。
  • BCのマニュアルでは、「レース当日、午前中に、競馬をする妥当性や健康に関して各々の馬はKHRCの獣医により検査されるべきである。この検査は速歩での動きを観察することも含む。もし州の獣医が、ある馬が競馬をするのに耐えないと気づいたら裁決委員はその馬を除外してよい」
  • BCのマニュアルでは、上記のような記述がある。さらに「もしレースに適さないなどがわかったら、どんな馬も出走する資格はなく、裁決委員により宣言されるべきである。」

3. レース前検査

  • KHRCの獣医が、その日にレースに登録されているすべての馬に対して、レースに先立って朝にレース前検査をすることは標準業務である。レース前検査の目的は、ある馬レースするのに適しているかどうかを判断するためである。適性の基準は、レースするための健全性、全体的な肉体的状態、一般的な健康状態を含む。
  • 全BC出走馬は、トラック上で観察され、その週の間彼らの馬房で検査される。KHRCの獣医とBCの獣医は彼らの検査結果について毎日集まって議論する。馬はグループの議論を根拠として再検査される。LATの状態については何の留保も表明されなかった。
  • LATのレース前検査は、KHRCの獣医Dr. Brad Bentzと、BC委員会の獣医Dr. Kathy Piccianoにより行われた。Dr. Piccianoの供述書によると「レースの朝、Dr. Bentzが彼女の検査をしたとき、私は彼といた。私は彼女の脚を検査していなかったが、彼女が馬房の通路をジョグしているのを見て彼女は元気にジョグしていた」とある。
  • Dr. BentzはLATの歩様における、かすかな異常に気づき記録している。KHRCの獣医であるDr. Will Farmerは、Dr. Bentzの観察はレース前検査の第一ラウンドが行われた後にグループで議論されたとレポートしている。グループはLATを再検査する必要はないと判断した。Dr. Bentzは獣医グループが午前のラウンドで議論した後に、記録を更新しなかった
  • KHRCの獣医であるDr. Michael Hardyは、Race Day Assembly Chuteでレース前にすぐにその馬を観察した。Dr. Hardyは彼のレポートに記述している。「Life At Tenは、パドックへ歩いていくところで、臨床的に著しい所見は見られなかった」
  • レース前検査と、レース前の時間の間、LATが「1. レースに対する健全性や健康であるかどうか」「レースに適しているかどうか」「3. レースに耐えうるかどうか」について、BCの獣医(Dr. Jill Baileyは除く)やKHRCの獣医への注意はこなかった。

4. 獣医の配置

  • 競馬場におけるKHRCやBCの獣医の配置のコピーはAppendix Gに添付されている。
  • 3/8標識(残り6f標識)にKHRCやBCの獣医はいなかった。しかしESPNカメラはあった。テレビの視聴者とコメンテーターはLATのウォームアップを見ていた。それはKHRCやBCの獣医は見られなかったものだ。
  • Ladies' Classicの開催中とその前には全部で6人のKHRCの獣医と、5人のBCの獣医が競馬場にいた。

5. レース前ウォームアップ、レースでの走り、レース後についての観察

  • a. AAEP当番獣医
    • Dr. BramlageはAAEP当番獣医のフロントサイドを担当していた。Dr. BramlageはKHRCの従業員ではない。彼の陳述書によると、Dr. Bramlageが言うには、Jeannine Edwards は Velazquez が放送中に Jerry Bailey へ1枠のLATがよくウォームアップしていないと彼(Bramlage)に言った、と。 Dr. Bramlage は Dr. Peckham を無線で呼んだが、Ms. Edwardsが彼に伝えた具体的な馬のことを Dr. Peckham には知らせなかった。むしろ、Dr. Bramlage は Dr. Peckham に騎手の誰かが彼に何か言ってないかと訊いた。Dr .Peckhamは訊いてないと言った。Dr. Bramlageによると、Dr.Peckhamに電話したとき彼の周りにはレポーターや観客がいたので、具体的な馬の名前をあげなかったという。競馬場の獣医は、Dr. Bailey以外は誰も具体的な馬の正体を知らなかった。
    • レース前、Ms. Edwardsは「さあ、ガイズ、私は当番獣医Dr. Larry Bramlageといます。彼は私に現場近くの競馬場にいる獣医と話してきたと言っています。現時点で、Johnny Velazquezはこの馬のスクラッチについてまだ獣医には何も言っていないと、彼(Bramlage)は言っています。ゲートに近づくにつれて、彼女を見るかもしれませんが、現時点ではDr. Bramlageは競馬場にいる獣医はその状況を知るに至ってないと教えてくれました」 OIG調査官による面談でMs. Edwardsは、彼女はトラックの獣医はDr. Bramlageによって状況を知るだろうと思っていたと陳述した。彼女は、「私のTVモニタで何が起こっているかを見ていたし、馬に歩み寄ってきたり、馬を見たり、John Velazquezと話したり、私を叩きのめしたりするような、獣医やその他の人とは会わなかった。彼女がゲートに入れられるとき、私は、私は呆然とした」という。
    • AAEPの裏方当番獣医であるDr. Foster NorthtopはKHRCのメンバーでもある。彼はChurchill Downsのビデオ放送を見ていたが、ESPNの中継は含んでいなかった。枠入り約1分前、Dr. Northtopは、オフサイトにいてESPNを見ていた彼のアシスタントであるDr. Ross Russellから電話を受けた。Dr. RussellはDr. Northtopに、Velazquezが彼の馬の様子がどれだけ貧弱かESPNで話していると言い、それからDr. RussellはTVで見ていて彼女はコズミがあるように見えると言った。Dr. NorthtopはKHRCに獣医には電話しなかった。彼はそのレースを見たとき、Dr. Northtopは騎手がLATにまったく走らせようとしていないことに気づいたと言った。レース後、Dr. NorthtopはLATは競馬場を離れてくるのを観察し、彼女と彼女の馬房まで歩いていった。Dr. Northtopは観察した、「彼女は疲労困憊であったり、落ち着かなかったり、足が不自由な感じには見えなかった」「彼女は普通の馬が私のところに歩いてくるように見えた」と。Dr. Northtopはレース後「彼女は落ち着いているように見えた。彼女はダメージを受けていない。汗まみれではない。その時点ではまったく落ち着かない感じではなかった」
  • b. BC委員会の獣医
    • CHRB(California Horse Racing Board)の獣医であるDr. Baileyは、BC獣医委員会に勤めていて、馬の救急車のある1/4標識に配置されていた。Dr. Baileyは出走馬が直線でゲートに向かうところで、テキストメッセージを受信した。Dr. Baileyによる供述によると、そのテキストメッセージは彼女に以下を伝えた、「JohnnyはTVでネガティヴコメントをしている。私のリプライはトラックにおろしてもOKであるように見える、というものだった」。Dr. Baileyはテキストメッセージの件について競馬場の他の獣医には何も言わなかった。Dr. Baileyは「何らかの問題を表している出走馬がいることにはまったく気が付かなかった」という。Dr. Baileyはそのメッセージを受信したとき、出走馬は彼女から遠いところにいて、ゲート近くにいた。彼女は、Dr. PeckhamがDr. Bramlageにすべてはうまくいっているようだと返答した後に、メッセージを受信した。「それで私は足を踏み入れる立場にはないと感じていた」
    • Dr. Robin Whiteはレースの発走前に発走ゲートに配置されていた。KHRCの獣医のひとりはDr. Peckhamにアプローチして、馬が十分にウォームアップしていないという「噂」について短く議論をした。Dr. Whiteの陳述書では、「私は断固として自信を持って言える。Dr. Peckhamや他のどの獣医も(もしいずれかの馬がそうであっても)どの馬がそうであるか特定の情報を得ていないと。この情報の欠落という観点から、またゲートでどの獣医の懸念もあげられなかったことからも、すべての馬はゲートへ運ばれレースをした」
    • 他のBC委員会の獣医による陳述書と面談からも、LATがレースに適さないと示したものは何もないと観察した。
  • c. KHRCの獣医
    • VelazquezがLATは「いつものようにウォームアップしていない」と懸念をしていたことについて、KHRCの獣医は、裁決委員やPletcherやVelazquezやAAEP当番獣医やBC委員会の獣医から知らされていなかった。またKHRCの獣医はESPNのどのコメンタリーについても情報を受けていなかった。
    • 馬はレース前に競馬場にいるが、KHRCの獣医もまた馬を観察するために競馬場にいて、テレビは見ていない。
    • Dr. Peckhamは彼のレポートでこう陳述した、「4人のKHRCの獣医と、2人のBCの獣医が配置されていたので、ウォームアップ中の馬場を監視できていて、私たちの誰もその牝馬には異状が見られなかった。2人のKHRCの獣医と1人のBCの獣医はトラックを離れる彼女を見たが、レポートすべきことは見なかった。」、また「後から考えると、騎手が個別の馬を心配していることを知っていたら、私たちの一人が騎手のところに問合せにいっただろう。」 さらに「VelazquezはLATについてレポートした懸念をKHRCの獣医の誰かに持ってきていれば、私たちは裁決委員に彼女をレースからスクラッチすべきだと勧告しただろう。」
    • Dr. Farmerは、発走の約2,3分前にDr. Bramlageの電話がBCの無線経由で来たという。AAEP当番獣医は以下を参照。Dr. Farmerは競馬場のさまざまな獣医にアプローチして、彼らに、騎手の一人が彼の馬のウォームアップの状態について懸念しているという「噂」があることを口にしていて、誰かが馬を獣医のところにつれていったか尋ねていた。彼らは口々に NO と言った。Dr. Farmerは陳述書でこう提供している、「LATは競馬場を歩いて離れはじめていたので、私は彼女のステータスを観察するために追跡トラック*4を飛び下りてアシスタント調教師のMr. Michael McCarthyと話した。馬は問題なく歩いているようで、十分に頭をまっすぐに立てていなくて疲れているようだった。彼女の耳は立っていて周囲を気遣っているようだった。Mr. McCarthyとの話の中で彼は、LATはHollywood Parkでかつて照明のもとで走り、とても貧弱な走りだった*5、と言った。その時は、彼らがシュートの先でターンし馬房へ向かうところまで私は彼らと歩いた。そこで、Dr. Michael HardyやDr. Brent CassadyやBC委員会獣医と会った。そこからDr. Hardy、Dr. Cassadyとで競馬場から離れる馬と歩いた」
    • Dr. Brent CassadyはLATと彼女の馬房に歩いて戻った。彼は、レース後のその間は足が不自由な様子やあからさまに疲労困憊な徴候は見られなかった。
    • Dr. Michael Hardyは、LATはゴール後、厩舎エリアへ歩いて戻った最初の馬だったという。Dr. Hardyの陳述書では、彼はこうノートしている。「LATは労作性疲労の緩やかな徴候を示したが、レース後にごく普通に診断されるもので他の馬と比べても通常の限度内である。以前、私のLATの診断の範囲内のどのポイントにおいても、レース中・レース後に、その馬が生理学的な疲労のもとにあったと示すような臨床的に著しい所見はなかった。」
    • Dr. Bentzは、Dr. Farmerにレース前に、騎手が馬のウォームアップについて懸念しているという噂を聞いたか尋ねられた。Dr. Bentzは1/4標識にところに配置されていた。誰もDr. Bentzのところに馬を連れてこなかった。Dr. Bentzはそれぞれの馬が入場行進を離れてキャンターやギャロップをしているのを見ていて、どの馬もあらゆる種類の歩様の欠点を示しているのは見つからなかった。またウォームアップ中にクラブハウスターンから馬ごみに戻ってくるときに歩様の問題は見つからなかった。
    • Dr. Liz Santschiは直線入り口の1/4標識で救急車の中にいた。彼女は特にウォームアップ中のLATを観察していなかった。彼女は、救急車のドアに立っていたときDr. Bramlageからの電話を聞いた。その馬は彼女の前で輪乗りしていて、騎手の誰かが獣医とコンタクトしようとしていたら彼女は診察することができた。
  • d. LAT担当の開業獣医
    • LATにはPletcherが雇った数人の開業獣医がいた。彼らは定期的または継続中の獣医学的ケアやサービスを提供していた。そのなかにはDr. Steve AlldayやDr. Ken Reedがいた。彼らはKHRCの調査担当により面談された。面談の中で、Dr. AlldayはESPNの中継をオフサイトで見ていて、レース前にLATはコズんでいると思ったという。
    • 面談の中で、Dr. Reedは、レースまでの1週間LATを治療したという。「彼女はとても健康な牝馬で、私たちは何もしなかった」 Dr. ReedはESPNの中継をオフサイトで見ていた。彼はウォームアップ中に「私は彼女が短い完歩で歩いていると確かに思った」と言った。 Dr. Reedはレース後にまっすぐLATの馬房に行った。彼は液体の筋肉弛緩薬と鎮静剤で治療した。なぜなら「彼女は明らかにかなりの疲労困憊で、明らかに固まった状態だった*6。つまり彼女は明らかに筋痙攣の状態だった。」という。彼はその夜、彼女の体温を測り、平熱だった。また彼は翌日採決をしたという。血液テストの結果に基づき、彼は「彼女はおそらくレースに向かうときに病気だった、そして私たちはそれに気づいていなかった。そのことが私がToddに言ったことである。『彼女は以前からちょっとした進行していた何かがあった。ウィルスかバクテリアのようなものが。なので彼女にLasixを打ち、私たちは彼女を電解質的な要因でショックを与えてしまい、それから悪化していった』」レース後、Dr. ReedはLATが通常の状態に戻るまで数日間治療を続けたという。彼は、LATはChuchill Downsから輸送されるときまでには元気になったといった。
    • KHRC Equine Medica DirectorであるDr. Mary ScollayはLATの獣医記録の分析を指揮した。分析はAppendix Hに添付されている。

(次回へ)

*1:要はメディア対応の獣医と実際に処置をする獣医を分けることで馬の治療に専念できるようにする

*2:フロントサイドとバックサイド

*3:法律素人なので間違ってたらすみません

*4:レース中に馬群を追っているトラックかと思われる

*5:筆者注:デビュー4戦目の2008/11/21 7R Allowanceかと思われる。5頭立ての3,4番手を進み、4角で反応よく2番手まで押し上げて直線は勝ち馬との差を詰められず、最後は後方の馬と競り合い3着に敗れた。勝ち馬とは 1/2 + クビ差で、本格化以前は勝ちきれない競馬をしていたことを考えれば際立った凡走とは言い難い

*6:dry out。これもコズミということか?