電王戦2.1 タッグマッチ

電王戦2.1 タッグマッチを現地観戦してきた。ネットで観戦するのと何が違う?足の疲れが違うくらい?
観戦の当選通知メールに、無料イベントなんで来ない奴いるじゃん?だから多めに出してるし、そもそも席は全員に用意してないよ?(意訳)とあったので文句は言えないが、ええ、立ち見でしたよ。正味10時間以上の企画だからなー。矢内さんとか森内名人も立ちっぱで楽な姿勢も取りづらかったろうし、出演者・観客の疲労をもう少し考えてほしかった。
あと写真撮影は可だったのか不可だったのか不明。多くの観客が撮影してたが、第3局くらいのとき?にスタッフが「撮影はプレスだけ」と1人の観客を注意していた(別にマナー違反な撮影をしてたわけじゃないよ)。その後も周囲は普通に撮影してたし。よくわからないので写真は載せない。

出場者は、コール習甦、佐藤pona、船江ツツカナ、塚田puella、三浦GPS。先後固定の変則トーナメントの抽選が最初に行われ、船江ペアが1番クジを引いて1回勝てば決勝かつ先手番。5番クジのコールが当然一番つらい枠で決勝まで2回で初戦は後手。
優勝したサトシン(渋)は同じく決勝まで2回、ただしすべて先手番と。決勝戦以外は1時間切れ負け。決勝戦のみは持ち時間1時間、切れたら1手30秒未満。

第1局はその▲サトシンpona vs △コール習甦。序盤からコールは習甦竹内氏とキャッキャウフフと相談将棋。一方のサトシンは序中盤から山本ポナと相談を始めた。タイミングは忘れたが、現局面の分析だけでなくおそらく双方とも?数手先を入力させて分析をさせていたのが印象的だった。これぞAdvanced Shogiですな。
第2回電王戦を思わせる習甦の無理攻めはやはり切れてしまい、このまま終わるかに見えたら粘りの手順に突入して、最終盤は読み手藤田綾を泣かせる超光速の相入玉にもつれ込む。最後は時間が切れたのかと思ったが、コールが残り8秒で投了していたようだ。現地だと持ち時間が表示されなくて、よくわからなかった。
コールは習甦を頼りすぎてしまったようで。△73桂前後の構想がどうだったか。本譜はサトシンponaペアがうまくやったというよりは習甦の自滅に近かったかも。

第2局は優勝候補同士、▲船江ツツカナvs△三浦GPS。局後のコメントによると事前に船江ponaタッグで普段VSをする棋士と練習していてタッグ側が強かったと。ただ終盤カチカチ(PCを)叩くと相手がビビってしまうという効果もあったようだがw 普通に考えてそりゃ人間1人よりは強いよな。
船江が先週王将戦で出したばかりの横歩取りの最新型らしい。いきなり飛車をぶつけて交換させるという激しい手順。本局を想定してというわけでもないだろうが三浦は確認済みだった。解説となったコールは横歩は苦手で"わからない"を連発。局後に両対局者もわからないを連発していたのだから仕方ない。
タッグマッチの見所としては一手の選択を「棋士がソフトの評価値をもとに候補手を採用する」「ソフトの候補手に味付けをして採用する」「候補手を信じない(棋士の構想を生かす。あるいはハードの性能や時間的な問題からソフトが探索しきれない場面での人間判断)」のいずれで進める点があったと思うが、変化が多すぎで難しすぎだったこともあり、棋士がソフトの評価も自分の評価も信じられないというのは想定してなかった。
将棋としては面白かったがタッグマッチとしては微妙な戦型選択だったかもしれない。三浦が勝利。
あと受けのGPS推奨△53桂について船江は棋士でこれ指すのは頭おかしいと思うと言っていたら、これコールの候補手だったw コールわからん連発のうえに頭おかしいんじゃね発言、しかも負けた後の解説とふんだり蹴ったり。でもコールくんはいじられキャラなのでこれでいい。
結果玉の行き場も狭めて効いていたし変な手じゃなかったようで。人間は香車がわかりやすいけど。

第3局、サトシンpona vs 塚田Puella。足が疲れて横歩なのを確認してから抜けちゃった。puella α側だけGUIが将棋所でなく難解そうな画面でした。入力もテキスト直っぽかった?伊藤電王間違えたっぽくが貞升に棋譜確認してたり。おちゃめな一面。しかしこの方、なんて見事な"不敵な笑み"ができるんだろ。

そして決勝。▲サトシンpona vs △三浦GPS。ゼロ手損角換わり相腰掛銀から▲45銀とぶつけて忙しい流れに。42手目付近でここ面白かったが森内名人がponanzaの読み筋に驚きの声。後手の壁型を突いてハメ手のような手順で一気に追い込む筋が紹介された。そう単純な筋にはいかないとは思うけど、後手の飛車を追い込む変化なども含め森内名人が意外にも後で調べる価値があるぞと思っていそうな雰囲気を感じた(全体を通して森内名人が先入観や偏見なくソフトの読み筋への分析や評価をしていたように。来年の名人戦にソフト新手を繰り出すかも)。
その後、後手の馬が先手玉を直射して攻めがつながりそう。これは後手優勢、評価値もその評価。ところがサトシンがドラマをつくりだした。ようやくとばかりに成銀を寄った場面はまだまだ窮地という印象も83手目▲38金打が根性の一手で後手の龍が閉じ込められた。その後の交戦で後手は攻略の足場を失って馬だけが頼り。そして▲56歩が受けの妙手。名人も58歩でなく一度受ける意味なんなんすかねと言っていたが、結果的に55の空間を開けたことで後の寄せにも好影響を。既にサトシンは秒読みなのでマシンスペック的にソフトの評価は信じられない局面。自分で指していたら妙手連発。やっぱサトシンは年齢制限ギリギリで四段なったり歴史上初のソフトに負けた現役棋士なったり劇的な人生を歩む運命にあるのかも(ただ影の部分、通な部分で劇的な。タッグマッチ優勝というのも地味だし)。
奇跡的な大逆転、サトシンの数奇な人生を思うに神妙な気持ちになった。

全体的な所感として。

  • 局面の深刻さ、持ち時間に対する適切な考慮時間に比して十分な探索局面数は確保できたか、プロ棋士が参考にできるレベルにあったか。高スペックPCだったようだけどそれでも十分なものだったか。いやあんまりスペック高いと人間が指す意味がないか。こんな感じでよかったのかも。(ふなえもん曰く3番手くらいの候補手がアマ初段のようなレベル)
  • 棋士の決断の遅さによりソフトの検討時間が削られていなかったか。(ソフトの終盤力を生かせなかったように)
  • 人間がソフトの判断を採用するのは序盤中盤終盤のどこがいいのか。たぶん仕掛けのところからかな。
  • 込み入った局面で、ある一手を棋士とソフトのどちらかが指したかはもはや峻別不可能。たぶん棋士の場合は、直感で選定した数手をもとにソフトの判断とぶつけていく、ただしソフトが読んでない場合や局面を入力して分析する、またはソフトが検索中止したその先まで分析させていく、という使い方だったと思うが、これは共同作業だからどっちがどうとは言えない。
  • Advanced Shogiは本腰入れていく対戦フォーマットだと思う。連盟がどう進めていくか。進める場合レギュレーションの設定がかなり難しいかと。
  • 森内名人ってこんな面白い人だったっけ?オープニングでボソボソしてた時には声張れ!って思ってたけど、ソフトとの関わり含め森内名人を解説に選んだ企画側の好手でしたね。
  • 私たちは矢内さんに頼りすぎではないだろうか。

wikipedia:Advanced_Chess(http://en.wikipedia.org/wiki/Advanced_Chess)によると、1時間切れ負けは一般的なルールのようで。あとメリットとして、
"giving the viewing audience a remarkable insight into the thought processes of strong human chess players and strong chess computers, and the combination thereof."
(強い棋士、強いソフト、またその両者の連携をもとにした思考過程の中にある卓越した読み筋を観客に示すこと)
とあった。ソフトの純粋な読み筋や、棋士が何を読ませていたかを公開して欲しかったな。
次回への課題ということで。

それにしても『電王戦のすべて』が既視感のある内容で物足りなかったところに、『ドキュメント電王戦』ともう1冊の関連本が出版されるとか。勘弁してくれと。ポチっとしてしまった。